ただ恨まれるのはつまらない<戦国策 東周策 006>
事例
秦が韓を伐つために周を通ろうとした。秦を通せば韓に恨まれ、通さなければ秦の不興を買う、と周は恐れた。
役人の黶(エン)が周君にこう言った。
「人を使って韓の公叔(相国)に言いなさいませ。
『秦が周を通って韓を伐つのは、周を信頼しているからでございます。あなたは、周に領地を贈り、楚に使者を往かせることです。韓が周や楚と通じている、と秦は疑いましょう。そうすれば秦は周を通れず、韓を伐つのを止めるでしょう。』
そのうえで、秦君にもこう言うのです。
『韓では領地を無理やり周に贈り、周が秦に疑われるように画策しておりますが、領地を受け取らない理由がありません』
韓の領地を周に受け取らせない理由が秦にはありません。つまり、秦を裏切らずに韓から領地を貰うことができるということです」
ポイント
・表では第三者を装い、裏で糸を引く
・強者(秦)に従いつつ、弱者(韓)から毟り取る
両方から報酬を奪う<戦国策 東周策 004>
事例
東周が稲を作ろうと思ったが、川上にある西周が水を堰き止めてしまったために東周は困った。
食客の蘇子が東周君にこう言った。
「私が西周に水を流させようと思いますが、いかがでしょうか?」
そして西周の君に会って蘇子が言うには、
「あなたのお考えは間違っておられます。水を流さないというのは、むしろ東周を富ます行ないです。なぜなら今は東周は麦のみを作っており、他には何も作っておりません。もし君が水を流せば、麦を駄目にすることができ、今度は稲を作るようになるでしょう。そうすればまた水を止めれば良いのです。こうなれば東周の民は西周を仰ぎ、命令にも服するようになるでしょう」
西周君は「そうしよう」といい、ついに水を流した。蘇子は両国から報酬を得たのだった。
ポイント
・現在の行為を止めさせるために、後の利益を示す。
他人の賄賂で恩を売る<戦国策 東周策 002>
事例
秦が韓の宜陽を攻めた。
この攻伐が成功するかどうか周の王が臣下の趙累に意見を求めた。
「きみはどう思う?」
趙累こたえて
「宜陽はおそらく陥ちるでしょう」
周君いわく
「宜陽の城は八里四方、人材は十万、食糧は数年は持つし、公仲移(韓の宰相)の率いる軍勢は二十万を数え、楚の景翠が援軍を率いて山に拠って援護している。秦が功を挙げることはできないだろう」
趙累こたえて
「甘茂(秦の将)は余所者なので、成功すれば厚遇されますが、もし失敗すれば秦を追い出されます。しかも秦王は他の臣下の諫めを聴かず韓を攻めました。よって(必死になるので)宜陽は陥ちると申すのです」
周君いわく
「きみは私のために何か策を謀ってくれるだろうか?」
趙累こたえて
「君は景翠にこう言われるのです、『あなた(景翠)は最高の爵位であり、あなたの最高の官職です。もし戦って勝ってもこれ以上の昇進は無いが、負ければ死ぬことになるでしょう。ですからあなたは宜陽が一たび陥ちてから秦軍をを討ちなさいませ。秦は疲弊しているので贈りものによって戦いを避けようとするでしょう。そうなれば、韓も贈りものを用いて秦軍と戦わせようとするでしょう』」
秦が宜陽を陥すと景翠は軍を進めた。秦はこれを恐れて景翠に土地を贈り、また韓も重宝送った。このため景翠は東周に恩を感じたのだった。
ポイント
・兵力や地形などの見える戦力だけでなく立場やメンツなどの見えない戦力なども考慮する
・行動を止めるには利害を比較して割に合わないことを強調する
・相手を消耗させ自分の相対的価値を上げる
・第三者から賄賂を贈らせるように謀ることによって恩を売る